男性による女性への施術で新境地を切り開いてきた男性エステティシャン 大澤 隼人さんのこれまでと、将来についてお話を伺いました。
男性でエステティシャンの方って、まだまだ少ないですよね? そもそもどんな経緯でエステティシャンになろうと思われたんですか?
「学生時代からずっと美容の世界には興味があったんです。女性はなぜ「美」を追求するのか? それは、他人に今よりも良く見られたい・美しくありたい、 という欲求から生まれるのではないかと考えるようになりました。なぜなら僕自身も『いつも若くいたい! 格好よくありたい!』という気持ちが強いほうなので、この気持ちって同じことだと思うんですよね。
だからごく自然な感覚で、女性の方たちが追求する気持ちが理解でき、そんな方たちの役に立てるような仕事がしたいと思うようになったんです。
そこで『全身のボディメイキングができるエステティシャンになるというのはどうだろうか?』と思いたったのです。現在でも男性エステティシャンの認知度は低いくらいですから、当時は全くと言っていいほど、世の中に浸透していませんでした。でも僕は、人がやっていないことに、あえてチャレンジする姿が「異端児」っぽくて、ワクワクしちゃったんですよね(笑)そんな思いつきが、今思えば第一関門の始まりといえますけどね(笑)」
現在に至るまでは大変な道のりだったんですか?
「まずはエステティシャンになるためのスクール探しからスタートです。これがもう悲しくなるほど、ことごとく断られました。スクールを探しては、手当たり次第にあたるんですけど、どこからも返ってくる言葉は「ダメ」の一言。ある時なんて「エステティシャンをやるなんて男性には無理ですよ」とまで言われてしまい……。でも諦めるという気持ちにはなりませんでした。新たにスクールの資料を集めたり、スクールの説明会に参加したりと、隈なく探し回って、ようやく見つけました。
卒業して、そのままエステティシャンになられたんですか?
「そうですね。スクールを卒業する頃になると将来的には、スクール経営もやってみたいと考え始めていました。そこを目指すのであれば、まず講師としてのスキルが必要になるかなと。それで卒業後は、エステティシャンの道ではなく、そのままそのスクールの講師になることにしたんです。ですがここでも問題が……。何しろスクールを卒業してすぐに講師という立場になったので、サロンでの実務経験がないわけです。自分が教えてあげられるのは技術だけ。
でも当然のことながら、スクールの生徒さんたちからは「お客様がこんなことを望んでいた時はどうしたらいいですか?」「お客様へどんな風に伝えたらいいですか?」なんて聞かれます。そんな局面を目の当たりにして初めて、サロンの現場をイメージすることすらできない自分に愕然としました……。そして、お客様の対応に迷う生徒さんたちへ的確なアドバイスが出来ないことが本当に申し訳なくて……」
なるほど。スクールの生徒さんから先生とよばれるプレッシャーはあったんですかね?
「そうなんです……。確かにありましたね。生徒さんたちには、現場のリアルな言葉をちゃんと伝えていける講師になろうと、一念発起して、男性でもすぐに働くことのできる整体サロンでも働き始めたんです。そのサロンで、僕自身がやっと、人生初となるお客様への施術を体験しました。あのときの緊張感と言ったら言葉では言い表せないものですね(笑)。」
実践すると見えてくるものがあったのですね。その後はどうなさったのですか?
「それからも更なる経験を求めて、エステティックサロンで働きました。毎日がすごく忙しかったけれど、時間や体力的なことでの辛さは不思議となかったですね。でも、またもや壁が・・・」
またもや壁が? 今度はどんな壁だったんですか?
「エステティックサロンでは、男性エステティシャンを受けいれてもらえないんです。最初から“男性NG”とはっきり断れることもありました。
今思い返せば、この頃の受け入れられないという期間が一番辛かったですかね。毎日ただひたすら働く一方で、これから僕はどうなっていくのか……と、ものすごく不安にもなりました。
それからしばらく経ってもサロンやスクールで、まだまだ男性エステティシャンに対する偏見はあったので、「このままではダメだ! 状況に変化を出そう!」そんな思いから独立をするというきっかけになりました。」
独立と同時に「姿整美」を考案されたんですか?
「はい。僕は“エステ”と“整体”のどちらも経験したことで、一つの答えに辿り着きました。美しさの基本は、”姿勢”からだと気付きました。姿勢において重要なポイントとなる「鎖骨」に着目して、“エステティック”と“整体”の要素を融合させ完成したビューティーメソッド。鎖骨から全身へと“流す”“ほぐす”を繰り返し行ないながらトータルバランスを“整える”ことにより、その人だけが持つ「美」を追究する新技術です。
これを機に、テレビ取材も増えていき、更には書籍出版まで決まりました。そして、サロンもだんだん予約で埋まるようになってきて厳しかったサロン経営も、順調に回りだしてきたんです。」
男性エステティシャンとしての先駆者として、今はどんなことを考えていらっしゃいますか?
「サロンに来てくださる方はネットで調べたり、ご紹介で来てくださったりするお客様がほとんどなので、さすがにもう『男性NG』なんて言われることはなくなりました(笑)。
サロンのお客様は、女性のエステティシャンと比べると男性エステティシャンは、手のひらの厚みや大きさがあり包まれるので安心感があり、力の入れ方にも安定感があるので心地よいと言って下さる方もいます。
ただ、いまだに『エステ=美容=女性の仕事』というイメージは強いと思います。
だけど僕の施術の場合は、“エステ”と“整体”が融合したメソッドですので、いわゆるエステだけとしてではなく、もう少し“健康美容”という認識を持っていただきたいです。だから今後はもっと、代替療法や未病のケアなど、予防医学の普及に携わっていきたいとも考えています。」